ARLISS 2005 カムバックコンペティションで優勝!
Last update October 21, 2005


1)はじめに

2005年9月21日から23日にかけて,アメリカ合衆国ブラックロック砂漠にて,ARLISSカンバックコンペティションが行われました.吉田・永谷研のローバーチームは,開発したロケット搭載用小型ローバーの走破性や耐久性等の実験を兼ねてこのコンペに参加し,その結果,総合優勝となりました.以下の記事は,このコンペティションの最終プレゼンテーションで利用した資料を修正した,ARLISS2005の報告です.ARLISS2005の公式のページは,こちら

2)ARLISSについて

ARLISS(A Rocket Launch for International Student Satellites)プロジェクトとは,日米の学生が開発した小型ロボット(ペイロード)をアメリカのアマチュアロケットにより,高度4000メートルまで打ち上げ,ロケットから分離・放出されたペイロードがパラシュートを開き,地面に到達するまでの間に様々な実験を行うプロジェクトです.1999年からアメリカ合衆国ネバダ州Blackrock砂漠において行われています.

私たちは,ペイロードが自力で目標地点に帰還する能力を競う「カンバックコンペティション」に,2002年から参加しています.

3)開発した小型ローバー

2002年より,吉田研では,ARLISSカンバックコンペティションに「RUN BACK」というアプローチで,参加しております.このRUN BACKアプローチは,ローバーを空中では制御せず,地上に到達した後に,目的地に向かって「走行」するアプローチです.このアプローチを実現するため,2005年に開発したローバー「NOKO NOKO」は,以下のような形態となりました.

このローバー以下の特徴があります.

  1. 差動式操舵を有する走行系
  2. GPSを用いたナビゲーション機能
  3. ロケット打ち上げ,着地の衝撃に耐えられる各種の工夫
  4. 走行モータを利用したパラシュートの分離機構
  5. 長距離走行を行うための軽量化等の工夫

4)各種のテスト

ARLISSに参加する前段階として,耐久性や性能確認のための各種テストを行いました.その履歴を以下に示します.

2005年9月2日 振動試験:
宮城県産業技術総合センターにて最大9Gの振動試験を行いました.ローバーは,組みあがった状態で,この試験にパスしました.

(Movie)
2005年9月12日 気球を利用した落下試験:
グラウンドにて,地上約50メートルのところから,パラシュートをつけた状態でのローバー落下試験を行いました.パラシュートは無事開き,ローバーは着陸後,パラシュートを分離し,目的地(グラウンドの中央)まで走行することができました.

(Movie)
2005年8月〜9月 落下試験とパラシュート分離試験:
地上数メートルからの落下試験は,8月から約1ヶ月,連日のように行いました.また,地上でのパラシュート分離実験も,出発直前まで,繰り返し行いました.着地後にパラシュート分離ができなければ,全てのミッションが進まないため,これらの動作試験は念入りに行われました.
 
2005年8月15日 バッテリの耐久試験:
長距離走行に耐えられるかどうかを試験するため,夜通しロボットを走行させる試験を行いました.
 

5)最初のトライアル

2005年9月21日,最初のトライアルが行われました.以下に,そのトライアルの状況とムービーを掲載します.

天気は快晴,風もそれほど強くなく,絶好の打ち上げタイミングでした.打ち上げのムービーを,以下に示します.(Thanks to Eric for a beautiful launch!)
(Movie)

着地地点は,打ち上げ場所から2.1km離れた場所でした.パラシュートは無事開き,パラシュート分離にも成功し,自律走行が開始されました.走行の様子を以下に示します.


(Movie)
ローバーが障害物にスタックし,動作不可能になると,GPSデータが更新されなくなります.これを検知し,このローバーは,回避モードに移ります.このモードでは,ローバーは一旦後進し,角度を変えた後に,もう一度前進します.しかしながら,今回の環境には,我々がこの状況を想定していない深いわだちがあり,このローバーの車輪径では,踏破できないものでした.そこで我々は,走行に先回りして,わだちをならしましたが,この行為のため,最初のトライアルでは,失格となりました.
(Movie)
わだちならしという行為を行いつつも,ローバーは,2100メートルを走りきり,ゴールに到達しました.以下のムービーは,ローバーが最終地点(ゴールより421cmのところ)に到達し,スタッフ一同,大喜び(ぬか喜び?)しているムービーです.
(Movie)
右図は,最初のトライアルのローバーの軌跡を,GPSデータを元に,視覚化したものです.パラシュートが風に流されている様子や,若干右に逸れながら,ゴール地点まで走行している様子が見てとれます.失格とはなりましたが,我々は,完璧なナビゲーションであったと考えています.
(Clickして拡大)

6)2回目のトライアルへ向けて

多少の段差を踏破する能力は備えていた我々のローバーですが,雨上がりの後に走行した車が作った深いわだちは,1回目のトライアルでは,越えることができませんでした.そこで,ローバーの車輪系を多少小さくし,その先に8つのスパイクを備え付けたバージョンを現地で作成しました.その結果,段差や障害物に対する踏破性が大きく向上しました.ただし,摩擦が大きくなった分,総走行距離は短くなる可能性がありました.それでも,2回目のトライアルを行うことを決心しました.その試験を行っている際のムービーを以下に示します.

(Movie) (Movie)

7)2回目のトライアル

2005年9月23日,2回目のトライアルが行われました.以下に,そのトライアルの状況とムービーを掲載します.

天気はくもり,風が強く,打ち上げとしては,かなり厳しいものがありました.打ち上げのムービーを,以下に示します.(Thanks to Paul for a beautiful Launch!)


(Movie)
ローバーを載せたパラシュートは,強い風にあおられて,ゴール地点から4.2kmのところに着地しました.追跡班は,パラシュートを見失いましたが,ローバーを見つけたときには,ローバーは,すでにゴールを目指して走行していました.パラシュート分離等も確実に行われていた模様です.  
改良したホイールにより,ローバーは,段差を難なく超えていきました.しかしながら,地面との摩擦が増大したことにより,バッテリにとって厳しい走行となっていきました.
(Movie)
右図のように,天候が悪くなり,砂嵐(Dust Devil)が発生し,走行としては最悪の状況となっていきました.
(Photo:クリックして拡大)
人は車の中に退避しました.次に砂漠では珍しく,雨が降ってきたため,ローバーの電源系が懸念されました.
(Movie)

ゴール地点から222メートルのところで,恐れていたこと「バッテリーが消耗し,ロボット停止」が起こりました.そこまでの走行距離は,GPSデータより,およそ4.0km,走行に要した時間は,3.5時間でした.


(Movie)
右図は,二回目のトライアルのローバーの軌跡を,GPSデータを元に,視覚化したものです.4KM以上走行し,ゴール直前まで走行した様子が見てとれます.
(Photo:クリックして拡大)

8)結果

今回のARLISSカンバックコンペでは,ゴールから222メートルという記録はゴールまで最短であり,それにより参加した13チームの中で,総合優勝ということとなりました.上位3チームの結果は,以下の通りです.

一位 東北大学 222メートル
二位 JAXA 1340メートル
三位 日本大学 7300メートル

賞金こそ逃しましたが,我々のローバーが,3時間半の悪天候の走行に耐え,ゴール直前まで到達したというのは,非常に大きな成果でした.また,多くの課題も見えてきました.来年は,安定性や走行スピード,ロバスト性を増したローバーで,再挑戦したいと考えています.


ARLISS2006の結果について(New!)

ARLISS挑戦の歴史

東北大学 吉田・永谷研究室

主な研究内容

宇宙フリーフライングロボットの研究

宇宙ステーション搭載ロボットの研究

月・惑星探査ローバーの研究

小惑星サンプルリターンミッション MUSES-C





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