Rising Into Space -- Micro-Satellites and Micro-rovers Change the Game
「宇宙へ飛びたて! 小型衛星と小型ロボットが宇宙開発の常識を変える」
吉田 和哉 | TEDxTohoku | October 12, 2014


日本語字幕付きで、動画をご覧ください。
(英語字幕への切り替えも可能です。)


Photo by Kazuhiko Monden


私は約20年前に、ここ(杜の都)仙台の、東北大学にて航空宇宙工学の助教授に採用され、新しい研究室を立ち上げました。
研究を始めるにあたり、学生をエンカレッジするために研究室の目標を掲げました。それは、「私たちの夢を宇宙へ飛ばそう」でした。私はロボット工学を専門としていますので、具体的な「夢」とは、「未知の世界を探査するロボットの開発」です。

宇宙へ飛んでいくためにはロケットが必要となります。そこで米国に渡り、アマチュアのロケットグループとのコラボを始めました。ARLISS(国際学生衛星のためのロケット打上げ)と名づけられた日米共同プロジェクトが開始されました。打上げ場所は、ネバダ州のブラックロック砂漠。このロケットは、学生が作ったペイロードを上空4000mまで打ち上げることができます。まだ宇宙へは届きませんが、宇宙工学を学ぶ学生には非常によい実践の機会となりました。

ペイロードの大きさは、350mlの空き缶サイズ。よってこのプロジェクトはCANSAT(カンサット)と呼ばれるようになりました。これらの写真は、打上げとパラシュート降下の様子です。CANSAT(カンサット)プロジェクトは1999年に開始されて、いまでは世界中に広まっています。 様々な色の空き缶衛星が大空に打ち上げられ、これらは上空で気温や気圧を計測し、あるいは写真を撮影して無線により伝送します。学生たちは、このプロジェクトを通して多くのことを学びました。

次の目標は、本当の宇宙に飛んでいくことです。
宇宙に飛んでいく学生衛星として10×10×10cm、重さ1kgの大きさが提案されました。こんにち、これはCUBESAT(キューブサット)として知られています。

東北大学の私の学生たちは、一回り大きなCUBESAT(キューブサット)を作りました。そこにはカメラが搭載されています。この衛星は、非常にユニークなことに、国際宇宙ステーションから日本の宇宙飛行士によって宇宙空間に放出されました。
これは地球の写真ですが、皆さん、この小さなサイコロ型の衛星を見つけることができますか? そしてこれらは、東北大学のCUBESAT(キューブサット)「雷鼓」の搭載カメラが撮影した映像です。これこそまさに、私たちの最初の夢がかなった瞬間です。学生が手作りした衛星が宇宙を飛び、正常に機能して写真を撮り、地上に伝送することができました。
しかしながら、私たちの夢は続きます。

私たちは、科学的なリモートセンシング(地球観測)の能力をもったより大きな衛星の開発に取り組みました。この新しい目標に向かって、学生たちは一生懸命に取り組み、素晴らしい仕事を成し遂げました。
新しい衛星の大きさは50cm立方、重さ50kgです。このサイズの衛星は、Micro-Satellite(マイクロサット)と呼ばれます。この写真は、初号機のRISING「雷神」、そして5年後にはRISING-2「雷神2」を完成させました。

さて、問題はこれらの衛星をどうやって宇宙空間へ運ぶか? ―答えは、相乗り(ピギーバック)打上げです。
JAXA(宇宙航空研究機構)は、小型衛星に対して相乗り打上げの機会を提供してくれています。ここにGOSATと書いてあるのは、JAXAの大型衛星で、重さは1トン以上あり、開発費も数百億円です。それに対して、私たちのマイクロサットが如何に小さいかお分かりいただけると思います。全体から見れば小さなおまけかもしれませんが、私たちにとっては貴重な機会です。 このようにしてRISING「雷神」は2009年1月に、RISING-2「雷神2」は2014年5月に打ち上げられました。これらの衛星はいまも地球の周りを飛んでおり、特に「雷神2」は大きな成果をあげつつあります。

これらは「雷神2」に搭載された広角カメラによる地球の画像です。画質も向上しています。大型台風の姿も捉えています。こちらは、「雷神2」の画像を右に、気象衛星の画像を左に並べて比較したものです。学生が作った大学衛星が、本格的な衛星に負けない成果をあげているのです。
「雷神2」にはさらにカラーの望遠カメラも搭載しています。これは、地上風景の拡大画像ですが、町並みや田んぼのあぜ道まで見えます。地上の5mの大きさのものを識別する分解能があることを示しており、これはこのクラスの衛星では世界最高の性能です。これはすごいことです。満足のいく成果です。

私たちのマイクロサットへの挑戦は、人工衛星を小さく、安く、早く作ることに成功しました。特にコストについては、100分の1にすることができました。低コストでありながら、得られる画像は地球観測に十分なものです。
ひとつの衛星では、地上を観測できるエリアは限られています。もしも100億円の予算があるなら、高価な大型衛星を1機のみつくることはお奨めしません。その代わりに、低コストの小型衛星を48機作るべきです。48機の衛星が地表をくまなくカバーし、24時間体制で地球全体をモニターできます。このようにして、災害監視ネットワークなどが構築できます。

私たちの夢は終わることなく続きます。


Photo by Kazuhiko Monden

ネバダの砂漠に戻りましょう。
CANSAT(カンサット)プロジェクトが成功裏に動き出した後、学生が参加できる新たなコンペ(競技会)のアイディアが生まれました。それは、ロボットを作り、ロケットで打上げ、自律的にもとの場所へ戻ってくる能力を競うものです。ロボットはパラフォイルを用いて飛行制御をすることも、着地後に地上を走行してゴールに至ることも可能です。

私の学生は、この競技のために2輪のロボットを作りました。この大きさは円筒形のロケットにちょうど納まるサイズです。重さは1kg、キューブサットと同じです。2つの車輪の間には、バッテリー、コンピュータ、センサーとモーターなど必要な機器の全てが搭載されています。毎年、新しい学生が私の研究室に来ると、新しいロボットを作ることを課題として与えました。その結果、数年後には高性能なロボットが完成しました。

この動画は2008年の学生コンペの記録映像です。
-美しい打上げ、そしてパラシュート降下。
-着地後はパラシュートは不要になるので、自律的に分離します。
-地表走行を開始しました。
-その走行速度は、非常に速い!
-GPSで与えられた座標データに基づいて、ゴールの目印である旗を目指します。
-しかし、道のりはいつも平坦とは限りません。このような困難な状況に陥っても、自動的に脱出を試みます。
-そしてゴールに到着し、学生たちは大喜びです。
この成果は、学生たちの7年間にわたる進化を示しています。


Photo by Kazuhiko Monden

そして今日、テトリスと名づけた最新モデルを皆さんにお見せしましょう。とてもかわいい、クールなデザインです。
(スクリーン上には)国内の砂丘で行われた、テトリスの一つ前のモデルによる走行実験の様子を示しています。搭載カメラの画像がワクワクします!

そしていま、私たちの夢は、この小さなロボットを月面上で走らせることです。
その牽引力となっているのが、Google Lunar X Prize (グーグル・ルナー・エックスプライズ)です。これはGoogleがスポンサーになって、総額3000万ドル(約30億円)の賞金が懸かった国際的なコンペです。その条件とは、
-参加チームは非政府機関であること(国家予算によるプロジェクトではないこと)
-月面にロボットを送り込み、
-500メートル以上移動させ、
-高画質の画像を地球に送ること。
ルールは単純ですが、達成することは容易ではありません。今日現在で、世界の様々な国から18チームが参加しています。そして大変光栄なことに、日本からも1チームが参加しており、この挑戦的なレースの先頭集団に位置しています。チーム名をHAKUTO(ハクト)といいます。「白兎」(しろうさぎ)に由来しています。

宇宙にいつでも飛び立つことができる技術実証モデルとして、チームハクトは、最近2台のローバーモデルを公表しました。ひとつはMoonraker(ムーンレイカー)、もうひとつにはTetris(テトリス)というニックネームがつけられています。これらはいずれも小さなロボットですが、大きな可能性を秘めています。特にこのテトリスはわずか2kgですが、この中には先端技術が詰め込まれています。たとえば、この車輪は超高強度のプラスチック素材を使って、3次元プリンターで造形したものです。

この2台のローバーはテザー(ひも)を使って連結して走らせます。X Prizeのルールでは月面のどこを移動してもよいのですが、私たちには非常に魅力的な探査対象があります。それは、洞穴です。

2007年に日本の月面周回探査機「かぐや」が、月の表面に(クレーターではない)小さな孔があることを発見しています。科学者たちはこれを地下の溶岩トンネルの上に空いた孔、天窓と考えています。自然のトンネル、地下洞窟、これらの場所では温度変化が小さく、宇宙放射線や隕石衝突からも自然に保護されますので、将来人類が長期滞在する候補地として魅力的です。

縦孔探査を実現するアイディアは単純です。孔の縁に大きいほうのローバーがアンカーとして留まり、小さいほうのローバー=テトリスが孔の中に降りていきます。この動画はそのアイディアを示したものです。ここでは小さな崖を使って実験していますが、孔がもっと深くても、垂直な壁でも適用可能です。地底探査が終わったあとには、テザー(ひも)を巻き上げて小ローバーを引き上げます。
X Prize は、非政府の民間プレーヤーが革新的なアイディアに挑戦し、新しいビジネスを興すことを奨励しています。宇宙開発プログラムは、一部の限られたエリートメンバーだけのものではなく、誰もが参加できるものにならなければなりません。公開競争が、古いスタイルの宇宙ビジネスを変えていくことになるでしょう。

依然として、現実の宇宙開発プログラムは、巨大で、超高価で、歩みが遅く、他人を寄せつけず、恐竜のようであります。しかし、超小型の人工衛星や超小型の探査ローバーがこの常識を変えていくことになるでしょう。小さくて、低コストで、素早い宇宙開発を実現するアイディアはたくさんあります。最も大切なことは、宇宙開発に対する敷居を下げ、新しいプレーヤー(参加者)を増やすことです。特に、若い人たちを惹きつけることが重要です。
宇宙はすぐ手の届くところまで来ています。手作りの衛星と手作りのローバーがそれを可能にします。私たちと一緒に挑戦しましょう。皆で、このワクワクを分かち合いましょう!
ありがとうございました。


Photo by Kazuhiko Monden


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