ローバーとモグラ型掘削ロボットを使った月面極域での氷探査の検討
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Scene 1
月の極近傍の光があたる部分にランダーは着陸します.そこから,永久日陰となっている窪地の中へ
氷の存在を求めてローバーが探査を開始します.日陰ですから太陽電池が
使えないので,ローバーはバッテリー駆動とします.ライトで前方を照らしながら
移動します.
(mpeg movie 5.8M)
Scene 2
ローバーが,科学者の指示に従い掘削調査をおこなうポイントに到着しました.
車輪を支えているアーム状のストラットを前後に伸ばし,腹ばい
になるような格好で車体を安定させます.ローバーの背中には
太陽電池が畳んで収納してあり,伸展マストを伸ばすことによりソーラー
パネルが展開されます.太陽光線はほとんど水平に差し込んでいるので,
パドルを数メートル垂直に伸ばすと,太陽光をキャッチすることができるでしょう.
太陽光は,電力だけでなく,車体を保温する熱源としても貴重です.
(mpeg movie 5.1M)
Scene 3
ローバーの胴体の中には「モグラ型掘削ロボット」が格納されており,
腹ばいの胴体より,月面下層へ向かって掘削を開始します.モグラの
本体は上下2段に分割されており,まず上部を保持した状態で下部が
掘削前進し次に上部を引き寄せるという,尺取虫式の掘削を行います.
掘削の動力は,ローバーが展開した太陽電池で発電した電力を使います.
したがって,ローバーとモグラは電力ケーブルで結ばれています.
モグラの体内には,小型のセンサー類や簡単な分析装置を搭載します.
カメラも搭載して地層の写真を撮ります.
月の極の永久日陰域の地層には,H20の氷が含まれていると考えられています.
ミッションの目的は,まず第一にH20の存在を直接的に確かめることです.
そして,有機物の有無や組成を調べます.有機物の存在は,月のH20が彗星の
衝突によってもたらされたことを示唆します.そして,各深度におけるH2Oの
含有量を定量的に評価します.これまでのリモートセンシングのデータに
実地の定量計測データを加え合わせると,月全体でのH2Oの埋蔵量が推定できるよう
になります.月で水資源が得られることが明らかになれば,将来の有人活動の
展開に大きなはずみをつけることになるでしょう.
(mpeg movie 8.3M)
Scene 4
「モグラ型」掘削のメリットは,装置の全長より深い穴を掘ることができる
点です.ドリル掘削では,掘ることのできる深さは限られてしまいます.
ボーリング掘削では,非常に長い管と大がかりな装置が必要になってしまい,
そのような資材を月に持ち込むのは困難です.モグラは,自分より前(下)にある
土砂を自分の背後(上)に移動してやれば,原理的にはどんどん掘り進むことが
できます.更にモグラの最上部を切り離して,ローバーとの間を結んでいる
電力ケーブルを頼りに,土砂を月表まで押し上げることも可能でしょう.
この土砂をロボットアームで回収すれば,貴重な地下サンプルを得ることが
できます.ローバー上に専門の分析装置を搭載したり,あるいは掘削終了の後,
ローバーが着陸機(ランダー)まで持ち帰ることもできます.
掘削探査終了後は,モグラをつなぐケーブルを切断し,太陽電池で十分に
充電した後,サンプルを満載したローバーはランダーのもとへ帰ってゆきます.
(mpeg movie 3.4M)
私たちは,以上のようなシナリオを実現することを目指して,「モグラ型」掘削
ロボットや,それを搭載するローバーの研究,開発をおこなっています.
これまでに試作したモグラロボットのプロトタイプモデルの写真を下に示します.
本研究は,平成10年度より東北大学と宇宙開発事業団との共同研究により
進めております.
宇宙開発事業団の担当者は,先端ミッション研究センターの川勝康弘,
横山隆明,園山実(三菱総研)の各氏です.
東北大学の担当責任者は,大学院工学研究科航空宇宙工学専攻の
吉田和哉助教授です.
プロトタイプモデルの設計製作は,工藤拓(現NASDA),中西洋喜,
CG作成は,浜野博史,
小笠原克久の学生諸君が担当しました.
追記
以上の記述(およびCG,モグラロボットモデル)は,平成11年(1999年)に作成されました.
その後宇宙開発事業団は,2003年10月に宇宙航空研究開発機構(JAXA)へと生まれかわり,長期ビジョンJAXA2025では,将来の月探査がより明確に打ち出されています.
2007年9月には,月周回衛星「かぐや(SELENE)」が打ち上げられ,最新の搭載機器を用いて月の詳細な観測が行われています.月球全体の詳細な地形図が作成され,月の南極付近の永久日陰の候補地であるシャックルトンクレータの様子もハイビジョンカメラで撮影されています.
当研究室における移動探査ローバーの研究も,日々進展しています.しかしながら,月面での土壌掘削については,まだまだ基礎研究が必要な状況です.(2008年4月)
(c) The Space Robotics Lab, Tohoku University, JAPAN
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