小天体探査におけるサンプル採集法


小惑星や彗星のような重力の小さい小天体上で,サンプルを採集したり in-situ 分析(その場分析)を行うための,さまざまな方法について考察する.

まず,基本的な条件として考えなければならない点は,第一に小天体表面上はきわめて重力が小さく,探査機は,従来の概念での着陸を行い着陸点に安定して滞在することは困難である.第二に,人類の小天体に対する知識が未だ限られており,また,小天体は非常に多くの天体の総称であり,個々の天体については幅広いバリエーションがあるため,探査対象天体の表面形状や硬さについてはほとんどのケースで未知である,という点である.よって,微小重力および未知表面に対する適応性が,方式選択の重要な評価指標となる.

図は小天体表面上でのサンプル採集法についてのアイディアを整理したものである.


小天体探査におけるサンプル採集方式のさまざまなアイディア


図a)は,ドリルによってコアサンプリングを行うアイディアである.コアサンプリングは地質調査の基本的な手法であり,表面から最終的にコアチューブが到達した深さまでの連続的なサンプルを得ることができる.

しかしながら,ドリルの反力を支えるためには,着陸機が天体表面にしっかりと固定されている必要がある.欧州のROSETTAミッションでは,彗星の表面にアンカー付の脚を持った探査機を軟着陸・固定させ,ドリルによってサンプリングする方法が計画されている.彗星の表面は,比較的柔らかいと考えられるので,探査機体のアンカー固定やドリル掘削の実現性は比較的高いと言えよう.しかし,表面が固い岩塊で覆われた小惑星では,この方法は可能性が低い.

図b)は,上空でホバリングする探査機から銛(もり)あるいはペネトレータを打ち込む方法である.

上空から速度をもって打ち込まれるペネトレータの運動エネルギーによって,表面の破砕・貫入が比較的容易に行えることが期待できる.また,ペネトレータにテザーをつないでおくことによって,探査機本体が軟着陸する際にガイド役を果たし,かつ探査機を表面に固定する際にも役立つ.しかし,テザーのハンドリングの難しさを伴う.

図c)は,上空から弾丸状のプロジェクタイルを発射し,天体の表面を破砕し,その破片を宇宙空間にて回収するアイディアである.

破片の回収には,NASAのSTARDUSTミッション用に開発されたダストコレクターの技術が使えるであろう.この方法では,探査機は必ずしもターゲット天体の表面上にホバリングしたり,周回飛行する必要は無く,近傍をフライバイするだけのミッションでもサンプルを獲得できる可能性がある.よって,マルチフライバイ・ミッション(1機の探査機が複数の小天体を,順々に訪問するタイプの探査ミッション)のにおいて検討する価値が高い

しかし,天体上の破砕点とサンプルの回収場所が遠く離れてしまうため,サンプルの収量を上げることが難しく,仮にサンプルが得られたとしても,どの点から射出されたサンプルであるかを同定することが困難である.(もともと天体近傍を浮遊していたダストであるという可能性もある.)

図d)はプロジェクタイルによるクラッシュサンプリングを,天体表面にて行うアイディアである.
破砕点を円錐状の筒で覆うことにより,破砕片を円錐の頂点に集めることができる.また,探査機が表面に触れている時間は短時間でよく,「タッチ&ゴー」方式のサンプリングを行うことができる.小惑星サンプルリターンミッションMUSES-Cでは,この方式が採用された.MUSES-Cの開発過程で行われた各種試験の結果,5gのプロジェクタイルを300m/sで射出し,表面破砕した場合,表面が固い岩石であってもレゴリスで覆われていても,1回のサンプリングで総量数mg〜数gのサンプルが得られることが確認されている.

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